オオカミの呼ぶ声 番外編SLK 第3話 SLK2 いじめ 2 |
野球は早々に終わった。 カレンの球を打てるのは俺だけ。俺の球を打てるのはカレンだけ。 俺とカレンが打席に立てば、投手が他の子供の場合は全てホームラン。 子供たちはそんな俺たちを見て凄い凄いと楽しそうだが、俺はカレンが相手じゃないと楽しさは感じなかった。 飛んでくる球も俺とカレンが全て拾うため、俺かカレン以外点も入らない。 これならば、二人でキャッチボールする方がずっといい。 カレンも同じ事を考えていたらしく、つまらなそうにしていた。 周りは俺とカレンがだらけ始めたのに気がついたらしく、急遽かくれんぼをすることとなり、俺は校舎の裏側に向かった後、屋根に飛び乗ると、そのまま陰になって周りから見えない場所に移動し、ごろりと横になる。 晴天の空には僅かに白い雲が浮いており、いい天気だなと思わずつぶやいた。 気配に聡い上に匂いに敏感なオオカミだから、風下から完全に気配を断って近寄らない限り誰が来たか解るし、見つかるのも嫌だからまた別の場所に隠れる。だからカレン以外は見つけられなし、今回カレンも逃げる側なので誰も俺を見つける事は出来ない。ルルーシュならその辺考えて動くから、見つけてくれるのだが・・・。 「なーに暗い顔してるのよ?」 俺を見つけられる唯一の相手が、小声でそう声をかけてきた。やっぱり上手いな気配を消すのが。人間の、しかもこんな平和な村で育った子供がよくそこまで出来るよな。 「・・・カレンもここに隠れるのか?」 「だって、私が本気で隠れたら誰にも捕まらないもの。せめて私かあんたどっちか鬼なら、まだ遊べるんだけどね。時間切れまで一人で隠れてるのも暇だから、あんたを探してたのよ」 「さすがだな、声掛けられるまで気付かなかった」 「ぼーっと考え事してたからでしょ」 俺の横にごろりと横になると、カレンはそう笑いながら言った。 「別に考え事なんてしてない」 「そう?それならそれでいいけど、てっきりルルーシュの隠しごとに気づいて悩んでるのかと思ったのよ」 その言葉に、俺の頭にある獣耳がピクリと反応した。 「隠し事?」 隣に横になっているカレンに顔を向けると「そ、隠し事。気付かなかった?」と、こちらを向いて笑顔でそう言われた。 「俺に、隠し事を?」 ルルーシュが? 「まあ、これは私の勘だから、違うかもしれないんだけどね」 「何だそれ」 「ねえ、ルルーシュ、図書館行ったのかしら?」 「行くって言ってただろ?ルルーシュ本好きだから、ああいうとこ好きだろ」 「それはそうなんだけど、約束ってどんな約束だと思う?」 「どんなって?」 「だって、図書館は帰り道だし、暗くなるまで開いているのよ?遊んで帰る時に寄る事もあったじゃない。そんな図書館で誰とどんな約束したのかしら?」 ほぼ全学年の生徒が今一緒に遊んでいるのだ。遊ばない子供たちの中の誰かと約束?どんな?学校で済ませれない内容なのか? 図書館は桐原がルルーシュのために建てたようなものだから、ルルーシュ好みの本が多い。だから週に1度学校帰りに寄って本を借りていた。 だが、今日は本来であれば図書館に行く日ではない。 図書館の大人と約束?なんかそれもおかしくないか?大体、誰とどんな約束か、あいつ話さなかった。 「それにね、ルルーシュが調子悪くて遊ばないのって前にもあったけど、その時もスザクと私は遊ぶ約束をしたんだからっていって、教室で本読んで待っててくれたじゃない。なんで昨日は一人で帰ったのかしらね?しかも今日も。な~んか気になるのよね」 既に定番ともいえる場所。体育館倉庫。 そこには昨日、一昨日とはまた別の小学生がいる。6年にもなってこんなことに加担するなんてと呆れてしまうが、それだけスザクとカレンと遊びたいという事なのだろう。 「もうここに呼び出すのは今日で終わりにしてくれないか?交代で僕を見張るのも面倒だろうし、何より万が一にもスザクとカレンに見つかったら問題だろう」 「んなことお前が気にするなよな」 「女みたいな顔して偉そうに。いいから黙ってろよ」 休み時間は10分。こんな場所に呼び出されて時間を浪費するぐらいなら、何処か場所を決めて本を隠し10分待った方がずっといいというのに。そんなに僕が教室に居るのが邪魔なのだろうか。 「今度の土日、スザクとカレンちゃん誘って遊ぶ予定だから、お前邪魔するなよ」 「だから、何度も言うが、そういう話はスザクとカレンにしてくれ。決めるのは僕じゃない」 「うっさいな!お前は言われた通りにしてりゃいいんだよ」 煩いのはどっちだ。こんな連日姿を消していたら、いい加減スザクかカレンにバレそうだ。二日連続で一緒に帰らなかったことでさえ怪しまれかねないというのに。 そう思い嘆息しかけた時、背中にざわりと悪寒が走った。 あ、これは・・・ばれたか。予想よりずっと早い。流石だな。 それにしても二人とも上手いな。僕に今まで気づかせないなんて。 僕がそんな事を考えていると、相手は暇を持て余したのか、再び口を開いた。 「お前、今後二人と一緒に下校するなよ。ああ、どうせなら登校する時も一人で来いよ。俺たちがスザクとカレン迎えに行くから。いいな、解ったな!」 その程度の願いなら、解ったと答えてあげたいところだが、もう無理だ。 「なんでお前、そんな偉そうにルルーシュに命令してんだよ」 「おっかしいわよねぇ。なーんでルルーシュこんな場所でそんな事言われているのかしら」 それはこの体育倉庫の中から聞こえてきた。 いつに無く低く冷たく、それでいて怒りを滲ませた、声。 ああ、そこにいたのか。成程、そこなら隠れられるな。 それは僕の背後に置かれた体育用具。振り返ると、ガタリと音がして跳び箱の上の段がずれた。 「よいしょっと。あー狭かった」 「二人で入るには狭いのね、ここ」 その中から出てきたのは予想通りの二人で、僕を見張ってた6年生二人は驚きの声をあげている。 スザクとカレンがあれだけ殺気を放ったのに、気づいてなかったのか。 「二人とも、僕が教室から出た時、席に座ってなかったか?」 なんでここに?そう尋ねると、二人はにこっとその顔に愛らしい笑みを乗せた。 「ここにルルーシュの匂いが残ってるのが気になったんだ」 「昨日かくれんぼしてる時に見つけたのよね。新しい匂いだって言うし、ルルーシュはこんな場所、体育じゃない限り来ないはずだから、変じゃないってスザクと話してたのよ」 「俺から離れてここに来れる時間なんて決まってるからな。帰りは校門出るの俺見てるし、後は昨日一昨日と姿消した休み時間だけだろ?」 「そこまで解れば話は早いわけよ。あんたが休み時間教室を出た隙に私たちも理由付けて抜け出して先回りして隠れたの。で、どういう事なのかしらね、これって」 にこにことその顔に人好きのする笑みを浮かべているというのに、背筋に嫌な汗が流れるほど怖いその二人は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。 「最っ低!それでルルーシュを仲間外れにして、脅してたわけ?あんたたち恥ずかしくないの?それ、いじめっていうのよ!」 私は先生の許可を得、1年生から6年生まで全員を私たちの教室に集めた。そして、改めて彼らの話を聞いた後、呆れて思わずそう怒鳴りつけてしまった。 私たちと遊ぶにはルルーシュが邪魔だから、ルルーシュを除者にし、嘘までつかせていたのだ。その内容に怒りしか感じなかった。 私がこれだけ腹を立てているのだから、当然スザクはそれ以上で、ルルーシュが座る席の横に、まるでルルーシュを守る様に立っている。もちろん相当怒った顔で。今にも噛みついて来そうなほどなのだが、ルルーシュがしっかりとスザクの道着の袖を掴むことでそれを阻止していた。 「だけどズルイじゃないか!ルルーシュはいつもスザクとカレンと遊んでるんだ!」 「そうよ!ズルイのよ!私だってスザク君と遊びたい!」 「ルルーシュ君は一緒に住んでいるんだから、明るい時間は私たちと遊んでもいいじゃない!」 「そうだ!ルルーシュが独り占めするから悪いんだ」 口々にそういう彼らの神経が私は信じられなかった。なんでルルーシュが悪いの?何もしてないのに。何て自分勝手なの。 「お前らいい加減にしろよな!」 我慢の限界なのか、スザクが怒鳴ったその時、ルルーシュはスザクの袖を強く引っ張り、それ以上言うなと首を振った。 「スザク、カレン。僕は元々外で遊ぶのは得意ではないから、彼らと遊べばいい。それだけのことだろう?こんな下らないことで喧嘩をしてはいけないよ」 まるで年下の弟と妹に言い聞かせるようにルルーシュはそう口にした。 「嫌だ。俺はお前が学校に通うっていいうから来てるんだ。なんでお前を一人にして、俺が人間に紛れていなきゃならないんだ」 そのスザクの言葉に、周りは言葉を失った。 「大体、俺はこういう人間は嫌いだ。間違った事をしていながら、何でもかんでも人のせいにして、自分は正しいんだっていう。なんで何もしてないルルーシュが悪い事になってんだよ。なんでいじめをしてるお前らが正しい事になってんだよ。逆だろ、どう考えても。自分の悪事を正当化するなよな。確かにルルーシュは体力ないから一緒に遊ぶのは大変だけど、お前たちと遊ぶより何倍もルルーシュと遊ぶ方が楽しいんだ。それを邪魔するなら、もうお前たちとは遊ばない」 「あ、それも有よね。私もルルーシュとスザクの三人で遊ぶ方がずっと楽しいもの」 からからと笑いながら私も同意すると、非難めいた声が周りから上がり始めた。そんなこと言わないで、一緒に遊ぼうと皆が言う。言ってくれるのは素直にうれしいけど、性根の間がった人間は私も嫌いなのよね。 予想通りというべきか、非難の声はスザクの後ろからもあがった。 「何を考えてるんだ二人とも!僕と遊んで楽しいはずがないだろう。気を使う必要なんてないから、皆と遊んだらいいんだ。それだけの事だろう」 「気を使うわけ無いだろ、俺が人間に」 ルルーシュには相当気を使っているから説得力は乏しいが、まあそれは突っ込まないであげる。 「ルルーシュ、解ってるの?私の相手になるのスザクしかいないのよ?他の子たちが相手だと、怪我しないか、やり過ぎてないか注意しながらになるの。スザクもそうよ。私たちが本気で走り回ったら、皆すぐへばっちゃうもの」 「昨日の野球も結局カレン以外は相手にならないし、かくれんぼだって俺とカレンを全員で探しても見つけられない。逆に俺たちが鬼になればものの数分で終わる。人間の遊びはそんなもんだ。確かに皆で遊ぶのは楽しいさ。でも、ルルーシュとのほうがもっと楽しい」 「僕は皆より体力は無いから、相手にはならないだろう」 「そうよね~、あんたもっと体力つけなさいよ」 「ルルーシュは確かに体力ないけど、別に問題無いだろ。ルルーシュの分俺が動けばいいし」 「あら、そうね。私も動くから何も問題ないわよね。で、今度の土曜なんだけど、お兄ちゃんたちがまた山に登るらしいのよね。行かない?」 「行く」 「行かない」 「じゃあ決定ね。土曜は朝早いらしいから。あ、お弁当お母さん作ってくれるから用意しなくてもいいわよ。だから時間ぎりぎりまで寝てていいからね、ルルーシュ」 「待てカレン。僕は行かないって言っただろ」 「スザクが行くって言ったんだから、あんたも来るの。大丈夫よ問題は無いから」 「問題しかないだろう!!」 そんな風に私たちが和気藹々と、先ほどまでの怒りを消して話をしているから、周りの小学生たちは怒られていた事も忘れ、俺も行く、私も行くと口々に言い始めた。 私は「いいわよ?ただし朝6時には出るから、お弁当も用意してね」と笑顔で答えた。 教室のドアの向こうで様子を伺っていた桐原校長が、私が怒鳴り始めた時に、どうしたものかと悩んでいたようだが、これで一先ず落ち着くかとほっとした顔をこちらに向けていた。他の先生方も一様に胸をなでおろしていた。 これはアレよね。 先生や親たちも巻き込みましょう。 だって、登るのは私の兄ナオトと、元気だけはある玉城、そして兄の友人でもある登山部の面々。そんな人が登る山に子供が登れるとでも? ああ、私とスザクはいけるわよ。ルルーシュは私たちが居れば問題ないし。 いざとなれば背負えばいい。 でも他は無理よね~。 くすくすと笑みを浮かべた私は、訝しげにこちらを見るスザクに、どの山に登るか耳打ちした。もちろんスザクの領域内の山だから、それで何処かはすぐ解ったようだ。だからスザクが、こいつらとか?と、驚きの眼差しを向けてきたが、私は笑顔で頷いた。 それでも私たちと遊びたいし、着いて来たいっていうのよ? 私たちの遊びのレベル、知ってもらうのも手じゃないかしら? きっと入口で挫折すると思うけどね? そこからは山の麓を散歩でもして親と先生と帰ればいいんじゃないかしら。 残念だけど、ルルーシュは嫌な顔をして文句は言うけど、きちんと着いてくるのよね。 体力ないけど。 どんなに険しい道でも、自力で行こうとするのよね。 足遅いけど。 この差は大きいのよ。 我ながら性格悪いかな?と思いつつも、土曜日に彼らがどんな反応を示すか、ルルーシュがどんな文句を言うか楽しみで仕方が無かった。 予想通り登り始めて10分もせずに小学生組はダウン。 大人たちと仲良く下山してもらった。 ルルーシュも降りると言っていたが、私とスザクはルルーシュの手をそれぞれ握るとそのまま引きずる様に登り続けた。流石に途中からスザクが背負ったりもしたが、ある程度回復するとまた自力で登りだすのがルルーシュだ。 どうせ登らなければならないのなら、人の手は借りず自力で登りたい。 それがルルーシュ。 いい根性してるわよねホント。 山頂に着いた時にはぐったりしてたけど、それでもちゃんとその景色を皆で堪能した。 翌日は予想通り全身筋肉痛で布団にくるまり唸ってたけど、それでも私と玉城が持ってきたボードゲームやカードゲームを広げると、布団に横になったままでもしっかり参加する。負けず嫌いだから、それこそ全力で挑んでくる。 うんうん、私たちと遊ぶなら、このぐらいじゃなきゃダメよね。 月曜日に登校すると、皆さすがに懲りたのか、もう馬鹿な誘い方はしなくなったのだが、子供たちではかくれんぼも何も遊び相手にならないという言葉をしっかりと覚えていたルルーシュは、一つの提案をした。 「戦術だけで勝てると思うなスザク!P4今だ!」 「くそっ!負けるかよルルーシュ!!ってあれ?」 「え?スザクじゃなくて私!?あーもー!やられた!!スザク後は任せたわよ!!」 「やった!カレンを打ち取ったぞ!司令、P4任務完了いたしました!!」 「よし、良くやったP4、あとはスザクだけだ、畳みかけるぞ!」 カレン&スザク VS その他という組み分けをし、ルルーシュが子供たちの指揮官として立ち、あらゆる遊びでカレン&スザクペアを幾度も負かすという奇跡を起こし始め、尚且つ二人を全力で楽しく遊ばせる事にも成功したという。 |